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広告と日常の中の無意識 ー前編:人間の心にある「無意識」とはー

最終更新: 2022年12月9日

日頃、自分の意識に目が向くことはありますか?
 
人間が感じる意識は実はかなり氷山の一角であることはご存知でしたか?
 

 
例えば、漢字を書いていたら無意識に次の漢字の部首を足して書いていた。
 
買い物しているときに、無意識に好きな色の洋服を手に取っていた。

何も考えずに自宅に帰ることができる。


 
上記のように、私たちの生活には日々「無意識」が顔を出します。


 
広告はある意味そんな人間の「無意識」を上手に活用し、より効果的にアプローチしていくものです。
 

 
今回はこの「無意識」を中心に、私たちの日常にどう影響しているのか、そして広告とどう関係しているのかを前編・後編に分けて学んでいきます。

まずは「無意識」とは何かを探ってみようと思います。

<目次>
 
1.無意識を発見した人
 
 ① フロイトが確立した無意識
 
 ② フロイトの指す無意識とはどういうものか
 
2.フロイトが与えた影響

1.無意識を発見した人

 ① フロイトが確立した無意識

(Wikipedia:ジークムント・フロイトより引用)

19世紀から20世紀にかけて活躍したフロイトは人の心理的機能に関する理論及びそれに基づいた心理療法の体系である精神分析を提唱しました。PTSDや神経症などの患者の治療や研究の中で、「人は、日々、無意識の影響を受けて生きている」という考えを、世の中に広めました。

フロイトが無意識を提唱する前の心理学研究と言えば、ライプツィヒ大学に世界初の心理学実験室を開設したヴントによって、内観法と呼ばれる、意識を構成する要素を研究の対象としていました。また、その後にはワトソンらによる行動主義が台頭し、目で観察ができる行動が研究の対象となっていたのです。

そのため、フロイトによる無意識の存在の指摘がなされるまでは、私たちが把握可能な意識や行動といった、あくまで表面的な心理的機能が研究対象として取り上げられていました。当時は人間は理性によって行動を制限できるとされていた時代でしたので、今と違ってフロイトの無意識という考えは、ずいぶんと反感を抱かれることもあったようです。

しかし、フロイト以前の学者も、無意識の存在に気づいていました。例えば、精神疾患であったヒステリー研究の第一人者であるシャルコー です。フロイトはパリへ半年間留学した際に、シャルコーのもとでヒステリーに関する治療技法を学んでいます。

(シャルコーの講義風景:「こころのおはなし。(ジークムント・フロイト)」より引用

さらに、PTSDやトラウマについて研究していた精神科医のジャネからもフロイトは影響を受けています。ジャネは、通常の意識とは異なる領域の存在を認め、「下意識」という無意識に近い考えを提唱していました。

上記のようなシャルコーやジャネなど、当時の学者たちから人間の意識についての知識を深め、フロイトは自身の無意識に関する考えや研究をより確かなものにしていきました。

 ② フロイトの指す無意識とはどういうものか

身体の構造的に何も異常が見当たらないにも関わらず、生活に支障が生じているため、心の問題として取り扱い、催眠療法でその原因を迫り、ヒステリー治療を行おうとされてきたのです。

ヒステリー患者は催眠をかけられると、今まで全く語られることのなかった患者にまつわるストーリーを語り始め、催眠が解けると何を話したか覚えていないという事態にフロイトは直面します。これを受け、日常では意識されることのない、「無意識」と呼ばれる心の領域があり、人間の心には「意識に参入できる潜在的表象」と「意識に参入することができない潜在的表象」の2種類の領域があることに気付きます。

このようにして無意識が発見されたのですが、無意識だけではなく、人間の心は「意識・前意識・無意識」の3つの領域で構成されているとし、これを局所論と呼びました。

【局所論における心の3領域】

  • 意識:私たちが心的イメージ(表象)を、捉え、知覚できる領域

  • 前意識:普段は知覚されていないが、努力により知覚することができる領域

  • 無意識:全く知覚することはできないが、確かにこころの奥底にある領域

(人間の心を氷山としたイメージ図。人間の意識にのぼるのは、全体の3~10%と言われている。)

さらにフロイトは、人間の心的機能を3つに分けて考え、これを構造論としました。自我と無意識はかけ離れたものとして定義しました。

【構造論における3つの心】

  •  自我:自分と認められる部分

  •  超自我:社会的な道徳に基づき、自我にイドが侵入するかを検閲や監視をする部分

  •  イド(エス):自分とは切り離された意識下に認められない部分

(TANTANの雑学と哲学の小部屋:「意識・前意識・無意識と自我・超自我・エスの具体的な対応関係とは?②両者の間に存在するより複雑な構造を持った力動的で立体的な三項対立の対応関係の構図」より引用

イドは無意識のとても深い層に閉じ込められています。超自我は、その押し込まれたイドの内容が自我に望ましいものなのかを常に見張っているという役割を担います。自我にとってイドの内容が望ましくないと判断されたものは、無意識から出て、自我の中に入らないよう、抑圧と呼ばれる方法で防衛されます。

2.フロイトが与えた影響

その後、フロイトの弟子と言われていたユングが、師匠であるフロイトとは異なる無意識に関する考えを提唱しました。

ユングの無意識では、個人的無意識と集合的無意識という2つの層があると唱えました。

個人の中の経験による個人的無意識と、世界中の神話や芸術などに多くの共通点があることに気づき、人間には普遍的な集合的意識が存在していると提唱しました。私たちが同じような夢を見たり幻覚を見たりするのは、そのような集合的に作用する無意識があると考えたからです。

それらのうち主なものを、「元型(アーキタイプ)」として、それらを研究することによって、個人に起こる心の病や夢を理解し、精神疾患や心に傷のある人たちへの治療に役立てることができると考えました。

(ユングの提唱した無意識のイメージ図。世界中の神話や伝説、宗教観などに共通したエピソードが多いことに注目し、全人類に共通する女性像・男性像・母親像などを提唱した。)

こうしてユングは、フロイトの自我と無意識は乖離しているという点と異なった見解を持ち、むしろ相反する自分が意識と無意識にそれぞれ存在し、意識と無意識の関係は補償的で調和的なものであると提唱しました。

おわりに

ここまで紹介してきたフロイトですが、実は当時の時代背景や社会システムの影響を受けて、現代では現実的ではない学説も多く唱えていたことも事実です。

しかし、フロイトが唱えた多くの学説が、自分の診た精神疾患患者などの事例を分析したものであり、統計的根拠を伴い、現代の心理学の礎であることを忘れてはなりません。そのため、今日も精神分析学やカウンセリング、パーソナリティ障害の研究などにも大いに影響しています。

そして、フロイトが無意識に注目したことにより、世界中に人間には「意識できない領域」があることが浸透し、現代でもその無意識を活用した効果が様々提唱されています。今の我々にとっては「無意識領域がある」ことが当たり前なのも、フロイトをはじめとした、当時の心理学者が様々事例研究を通して立証していったがゆえの功績なのです。

次回はそんな人間の無意識が、日常でどのように人々に関与し、生活の中で当たり前に目にする広告においては、どのように活用されているのかを検討していきます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献

PSYCHO-PPSYCHO より「フロイトの無意識とは?発見までの経緯とユングとの違い、心理学へ与えた影響を解説」より参照

EARTHSHIP CONSLTING より「フロイトと無意識」より参照
 
心理カウンセラーやメンタルケアの知識が学べる講座サイトより「フロイトの心理学」より参照

This is Media 2021年9月7日「フロイトとは?「無意識」の発見・夢判断などフロイトの精神分析について分かりやすく解説」より参照

ビジネスのためのWEB活用術 2018年4月19日「潜在意識の特徴と顕在意識の違い|あなたが行動できない原因とは?」より引用

TRANS.BIZ WEBより「「ユング心理学」と名言を紹介!無意識やフロイトとの違いも解説」より参照