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止まっているエスカレーターに乗る時の違和感ってなに?



はじめに

皆さんは止まっているエスカレーターに乗降したことはありますか?


日本では停止しているエスカレーターに乗降することは珍しいことですが、 その時にどんな感覚になったか覚えていますか? だいたいの人が足元に違和感をお覚え、ぎこちない足取りになった経験があるのではないでしょうか? 今回はこの変わった現象についてフォーカスしていきます。

またこの現象に付随して、発生した心理学用語も紹介いたします。


<目次>
 1. 壊れたエスカレーター現象とは
 2. 違和感が起きる原因!大脳皮質と大脳辺縁系って?
 3. 心理学用語「エスカレーター現象」とは

1.壊れたエスカレーター現象とは?


停止しているエスカレーターに乗り込もうとするとき、バランスを崩す感覚に陥り、つまずきそうになる感覚になるのを体験したことはありますでしょうか。

実はこの違和感には名前があり、「壊れたエスカレーター現象(Broken Escalator)」と呼びます。


エスカレーターが止まっていることを目で認識していても、運動を司る脳によって命令された体はエスカレーターが動いている時と同じ動作をしてしまうために、視覚と運動を司る脳のギャップが生じ、私たちは違和感を感じるのです。


これは、脳からの「バランスを保持しようとする」指令と、実際の「エスカレーターの動き(動いているのが当たり前のエスカレーターが停止している状態)」との間にギャップが生じるためです。

普段エスカレーターを乗り降りする際、脳は「エスカレーターは動くものである」と認識していることが大きな要因です。


通常は、動いているエスカレーターに乗る場合、無意識的に進行方向に対して少し前方に重心を移動させ、身体のバランスを保とうとします。

もし、前方に重心を移動させなければ、足だけが前に進んでしまうことになり、身体は後ろに倒れてしまいます。


実際のエスカレーターは電動で動く乗り物であり、乗降時はその移動に合わせて前に重心を移動するように、身体は脳から指令を受けます。この無意識的な行動の感覚を、止まっているエスカレーターへの乗降時にも行ってしまうため、重心バランスに違和感が生じるのです。


実はNTTコミュニケーション科学基礎研究所の実験によれば、普通の階段でも見た目をエスカレーター風に変えると、この現象が起こることが分かりました。


この壊れたエスカレーター現象を研究している、NTTコミュニケーション科学基礎研究所所属の上席特別研究員五味裕章さんによると、エスカレーターに似せた模型に黒い布をかければ普通の階段と同様の感覚で乗降できるのに対し、覆いを外してエスカレーターのように見せると体が前に倒れるような感覚を感じるという結果が出たそうです。


(NTT技術ジャーナル2012.2号より引用 五味裕章著:上席特別研究員NTTコミュニケーション科学基礎研究所所属)


2. 違和感が起きる原因!大脳新皮質と大脳辺縁系って?


では、この不思議な現象はどういったメカニズムで発生するのでしょうか。


皆さんもご存知のことかと思いますが、我々の動きは全て脳でコントロールされており、状況によって使う脳の部位が異なります。


普通に歩いている時には「歩く」ことをいちいち意識しなくてもよいことからわかるように、簡単な運動は原始的な脳である、大脳辺縁系によってコントロールされています。


こちらが実際の脳の図になります。

赤い部分が大脳皮質で、青い部分は大脳辺縁系です。


それぞれの脳内での役割をご説明いたします。


まず人間の大脳皮質は進化した脳と言われています。左脳と右脳の2つの半球があり、間を脳梁によって接続されています。大脳皮質の大きさは下等生物では小さく、人間のような高等生物は大きい傾向があります。


大脳皮質は一次的な働きを受けもつ一次野と、より高度な機能を受けもつ連合野に分けられます。連合野は、様々な異なった情報を統合し、判断、記憶するとともに、その情報に応じて適切な指令を出す高度な機能を営みます。

中心溝と外側溝によって、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に分けられます。前頭葉は記憶や思考、計画、意思決定など、頭頂葉は運動・感覚や記憶、言語など、そして後頭葉は主に視覚や色彩の認知に関与しています。


また、それに対し大脳辺縁系は原始的な脳と言われており、動物として生きるために必要な機能を持った部分です。この大脳辺縁系は記憶や情動(喜び、悲しみ、恐れ、怒りなど)をつかさどる領域を指しており、機能としてのまとまりを指す言葉です。旧皮質と古皮質、大脳基底核の一部を含めた領域が辺縁系にあたり、そこで人間の感情をコントロールしています。


辺縁系の代表的な部位は、記憶の形成や保持に重要な働きをする海馬と、その先端に情動の中心的な役割を担う扁桃体があります。大脳辺縁系は、内分泌系と自律神経系に影響を与えることで機能しています。あまりに強い刺激を受けると、扁桃体が電気のブレーカーのような役目をして、それを海馬に伝えないように働くような機能があります。


今回の場合、エスカレーターを視認し、その状態を判断して動くよう命令するのは進化した脳である、大脳皮質にあたります。

そして自らの経験の中での記憶により、身体に命令をくだすのは大脳辺縁系になります。


止まっているエスカレーターを見た時、進化した脳の部位である大脳皮質はその停止した動きに気づきますが、原始的な脳の部位である大脳辺縁系は動いているエスカレーターに乗り込む際の通常の動作をするべきだと判断してしまい、間違って重心を前方にしてしまうことで、動きがぎこちなくなってしまうのです。


実は単純そうに見えて、脳の中では複雑な情報処理がなされているのですね。


3. 心理学用語「エスカレーター現象」とは


実はこの現象を元に、壊れたエスカレーター現象はその内容が転じて、「思い込みによって生まれる違和感」という意味で、「エスカレーター効果」として、心理学用語が生まれました。


「原始的な脳」と「進化した脳」とでギャップが生じ、脳が勘違いしてしまうことが原因となります。

人間の思考にある無意識の「思い込み」により、その思い込みが覆されたときにギャップや違和感が生じます。これが、エスカレーター効果が起きるメカニズムです。


実はこのエスカレーター効果をビジネスや日常で使うことができるんです。


例えば、営業シーンにおいて、買い手側は「売る側は自社製品の良い面しか言わない」という思い込みをしているケースがあります。その思い込みを覆すように、自社商品の良くない面を挙げると、エスカレーター効果によるギャップが生じ、買い手は本当の情報を的確に伝えてくれる、信頼のおける人物と判断してもらいやすくなるのです。


おわりに

人間は毎日この脳の中で情報や記憶を処理し、身体のあちこちの部位に指令を出しています。しかし、このメカニズムはまだまだ未知の領域も多く存在します。


今回は止まっているエスカレーターを乗った際に感じる違和感について紹介させていただきました。一度習慣化してしまっているものは、脳が環境が変化していると認識できたとしても、行動や思考をとっさに変化させて適応することは難しいと学びました。


このようなギャップが生じてしまう、私たちの持つ脳の、ある意味もろさのような部分にこそ、人間を人間たらしめる所以なのかなと筆者は感じました。


最後までお読みいただきありがとうございました。


参考文献

ネトラボ2018年5月19日「停止したエスカレーターを上るとき、何だか変な感じがする“科学的な理由”」WEB記事 JR鉄道総合技術研究所「人間科学ニュース2007年11月号」WEB記事 防災の種「【壊れたエスカレーター現象】止まっている時に乗るとバランスを崩すのはなぜ?」WEB記事

殻に閉じこもった脳外科医がいく2020年11月23日WEB記事

看護ルー2016年5月1日「大脳皮質の機能」WEB記事

Study-Z 「5分でわかる「大脳の機能」大脳辺縁系や大脳基底核などについて医学系研究アシスタントがわかりやすく解説」WEB記事

マイナビニュース2021年3月17日「エスカレーター効果とは? ビジネスに活かせる具体例を紹介」WEB記事

Theory 2022年9月1日更新「エスカレーター効果とは|もともとのイメージとのギャップを感じる心理効果」WEB記事

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