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『障害者差別解消法の改正 - 義務化された「合理的配慮の提供」とは?』




■はじめに

毎日、皆さんが何も意識しなくとも利用できている設備の一部が誰かにとってはバリアになっているかもしれません。


例えば、お店の入り口に階段しかない場合、車椅子に乗っている利用者の方にとっては大きなバリアとなり、お店の利用を諦めるというケースもあります。このような日常生活にあるバリアを取り除き、障害の有無に関係なくすべての人々が平等に社会生活を送れるようにするための法律が改正されました。


今回はこの法律改正を踏まえ、UDエスカレーターとしてエスカレーターにおけるバリアを考え、そして、何ができるのかを整理したいと思います。



■目次

さいごに



■合理的配慮の提供とは

日本では障害者差別解消法が平成25年6月に施行されました。

この法律は障害者手帳を持っている人だけではなく、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある人、全てを対象としています。

そして、「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進すること」を目的とし、事業者に2つのことを要請しています。


1つ目は、「不当な差別的取り扱いの禁止」です。

事業者が、障害のある人に対して、正当な理由なく、障害を理由として差別することを禁止しています。例えば、障害を理由に学校に入学できない/施設を利用できないというのは不当な差別的取り扱いにあたります。


2つ目は「合理的配慮の提供」です。

事業者が、障害の有無に関係なく全ての人々が平等に社会生活を送れるようにするため、日常生活にあるさまざまなバリアを取り除く配慮のことです。例えば、前述の車椅子の例ですと、事業者がスロープを提供するということやスタッフが移動をサポートするなどの配慮が必要となります。


今回の法律改正ではこの「合理的配慮の提供」の部分が改正されました。これまで、合理的配慮の提供が義務付けられていたのは国や自治体のみでしたが、法律改正により、全ての民間事業者にも提供が義務付けられることになりました。



■改正の影響

合理的配慮の提供が義務化となり、どのような影響を社会に与えるのでしょうか。

米国で制定されている「障害を持つアメリカ人法(ADA)」とは異なり、現状、日本ではこの法律に抵触しても罰金など特別な罰則はありません。しかし、障害当事者への合理的配慮を怠ることによる以下のリスクが予想されます。

・SNSなどでのレピュテーションリスク

・当事者を原告とした訴訟から敗訴につながるリスク

・当事者を事業ターゲットから外すことによる事業機会ロス


レピュテーションリスクについては、法律改正前でも以下のような事例が見られます。

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・「別の映画館で見てと言われた」車いす利用者の投稿にバッシング 「合理的配慮」どう実現していくか考えた 東京新聞より

・「わずか」な変化が困ります トイレ手すり訴訟から見える心のバリアフリー 産経新聞より

・JR駅の無人化廃止を求めた裁判 視覚障害者の原告が意見陳述 NHKより

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■エスカレーターでは何がバリアになっているのか

当事者にとってエスカレーターにおけるバリアとは何でしょうか?。

バリアをエスカレーターの「利用を諦めざるを得ない状況」と捉えると、当事者自身がエスカレーターを利用しようとする際につきまとう「危険や不安」がバリアとなります。


国土交通省の当事者へのアンケート調査「視覚障害者のエスカレーター利用のための誘導案内方法検討WGの報告」(令和3年)によると、当事者単独でエスカレーターを利用した際の過半数を占める危険と不安は以下の通りでした。

・危険としては、「誤進入」と「滞留している人への接触」

・不安としては、主に「エスカレーターを歩く歩行者」と「エスカレーターを探すこと」


まず、利用時の危険:「誤進入」に関して、

この問題には「音声案内」が有効とされています。しかし、当事者からは「エスカレーターが併設している場合には上り下りの区別がつかない」「周囲の他の音声が混ざり聞き取りにくい」といった声が多く上がっており、雑音の多い駅舎などの条件下では効果を発揮できない可能性があります。


次に、「エスカレーターを歩く歩行者」にぶつかられるなどの不安に関して、

この問題には、当事者も含めた利用者全体のエスカレーターでのマナー遵守や安全な誘導施策が必要とされており、既に大規模な対策が実施されています。例えば、2011年から毎年に国土交通省、理学療法士協会や全国の事業者が参加し、大規模なエスカレーターのマナーアップキャンペーンを行っています。地方自治体では、埼玉県や名古屋市で立ち止まって乗ることを条例化しています。

参照:エスカレーター「歩かず立ち止まろう」キャンペーンの実施について 東京都交通局HPより


最後に、利用時の不安:「エスカレーターを探すこと」に関して、

当事者の80%以上は位置を既に記憶している、もしくは、その記憶を頼りにエスカレーターを見つけています。その他、音声案内、人の気配/流れ、誘導ブロックを頼りにするなどしてエスカレーターを探していますが、音声については上述したように「周囲の音と被る」といった声、誘導ブロックついては「誘導ブロック上に人がいる」、など問題が多く残っています。


結果として、当事者は記憶に頼らざるを得ない場合が多くなるため、初めて利用する施設の場合、エスカレーターを利用すること自体を躊躇することになります。


これらの現状を踏まえた上で、追加的な合理的配慮の視点としては、「乗り口の把握」「誤侵入」に配慮し、「当事者が安全にエスカレーターに乗り込めるようにすること」であると考えています。

この“乗る前の配慮”においては、事業者の取るべき対策が十分ではないことが多く、当事者がエスカレーターに怖くて乗れないという事象が、上述のアンケート調査により明らかになっています。これに対して当事者の意見表明があった場合、事業者は、「合理的配慮の提供」について建設的に話し合うことが第一ステップとしての義務となっています。



■「乗る前の課題」を解決するバリアフリー対策

「エスカレーターに乗り込む際の課題」を解決する方法をいくつか紹介します。


・手すりへのバリアフリーマーク

この手法はエスカレーター手すりに一定間隔で目立つマークを打点することにより、転倒事故の未然防止を図る方法で、国土交通省より出されている「バリアフリーガイドライン」において推奨されている技術となっています。このマークは「遠距離からのエスカレーターの位置・進行方向の把握」に作用し、「エスカレーターを探すこと」「逆乗りの防止」に効果を発揮します。

参照:ゆうどうマークの実証実験結果 弊社コラムより
















・照明/ライト

エスカレーターのステップや踏み台などエスカレータの露出部分を照らすことで視認性を向上させ安全性を高めるという方法です。乗降部分のステップでライトを点滅させ、乗降位置を知らせるコムシグナルやコムライト、ステップ間を直接照らしておくことで安全性を高めるデマケーションランプというものなどあります。











・運転方向表示

この手法はエスカレーターの乗り口に矢印や進入禁止のサインを表示させることで運転方向の情報を伝えるというものです。設置する場所も様々で乗り口ステップへの埋め込みや、乗り口の約1m前に設置されるなどしています。また、センサー付きのものもあり、誤って乗ってしまうとセンサーが検知し警告音を発生させ、エスカレーターが自動で停止するものもあります。また、ポール状のタイプは乗り口のすぐ側にあるため目を引く作りになっています。



■最後に

法律の改正、そしてエスカレーターにおける安全対策に関して紹介いたしました。


現状、エスカレーターの安全対策は何が正しいか、事業者も判断が難しく、積極的な対策に二の足を踏んでいる状態だと感じます。合理的配慮については、まずは当事者の状況を理解し、何よりフェアに当事者が経済活動に参加できるにはどうしたら良いか、という事業者ならではの視点が大事だと思います。


法律を一つのビジネスチャンスとして、費用対効果の観点から当事者とともに事業を創っていくと言う視点であれば合理的配慮の基準が社内で整理できていくのはないでしょうか。


当社もエスカレーターの安全対策を専業にしている事業者の観点からより良い世界を作るために貢献できればと考えています。



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